くらしのたね

今も昔も、石鹸の匂いはイチバン人気(でしょ?)

 若い女性はいい匂いがする。 お風呂上がりのような石鹸のいい匂い。そういう女の子とすれちがうたびに思い出すのは、雑誌に書かれていた 「男の子が好きな女の子の匂いNO.1は石鹸」という記事。60年も昔の話だ。その頃まだ朝シャンの習慣はなかったし、石鹸の匂いをどうやって1日中持続したらいいんだろう、と頭をひねったけれどアイデアは出ず、男の子にはモテなかった。ま、たとえ石鹸の香りがしたとしても、 モテなかっただろうけど……。

tecoloてころ手作り石けん|こぐれひでこ

 2009年、石鹸で有名なフランス・マルセイユへ行った。62歳のひとり旅。ひとり旅は気ままだ。 港へ出向くと遊覧バスがやってきたので飛び乗った。小さな土産物店が並ぶ街角がバスの終点。プロヴァンス生地の店、ナヴェット(マルセイユ特産のビスケット)の店、絵葉書やら飲料水やら様々な店が並ぶ中に、ありました、ありました。マルセイユの特産品である石鹸店が。有名ブランド店ではないのだろうか、おしゃれなシ ョーウインドウではなく、板の上にずらりと並んだ石鹸。それぞれの石鹸には、粉のオレンジ、アーモンド、海藻、シナモン&オレンジ、粉のバニラという文字が刻まれていて、色も形も「正直者」といった印象。香りもおとなしく、清潔な感じ。時代は変われども「男の子が好きなのは石鹸の匂いのする子」なんだと思う。そして女の子だって石鹸の匂いのする男の子が好きなんじゃないかな。


マルセイユ石鹸 |こぐれひでこ

 旧港を見下ろすホテルに戻り入浴。石鹸の匂いを漂わせながら、部屋のテラスでトワイライトのひと時を楽しんだ。マルセイユの思い出は清らかな香りの石鹸と美しい紺青の風景。


マルセイユトワイライト |こぐれひでこ





2012年てころオープンから
毎回楽しくあたたかい暮らしのエッセイと写真を届けていただいた
こぐれひでこさんの「くらしのたね」は誠に残念ながら
今回の130号をもって
終了させていただくことになりました。

約6年間にわたり、ご愛読いただき誠にありがとうございました。

みなさま。
長い間“くらしのたね”をお訪ねいただきまして
ありがとうございました。
(こぐれひでこ)

*「くらしのたね」バックナンバーは今後も引き続き、ご覧いただけますのでどうぞお楽しみください。
   

こぐれひでこ「くらしのたね」バックナンバー

やさしい手作りのある暮らし てころはこちら

プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)