くらしのたね

心が緩むニッポンの祭り


 みなさんは《ひんここ祭り》というのをご存知だろうか。
日本一、いや多分世界一ゆる~いお祭りだと思う。
みなさんも体験したらいいのになあと思って紹介します。

 祭りの中心イベントは小高い丘の中腹で繰り広げられる人形劇。出演者は12人の農民,神官、須佐之男命、大蛇である。ただし神官と須佐之男命は1人2役を演じるので人形は14体。 農民が麦まきをしているところに大蛇が現れ、次々に農民を呑み込んでいく。飲み込み終わったそのとき、神官だったはずの人物が須佐之男命に変身して登場。大蛇を退治してメデタシメデタシというお話。

 心の底からメデタイと思えないのは、農民たちが大蛇に呑み込まれたまま、舞台が終わってしまうということだ。メデタイのかメデタクないのかワカラン。 素朴すぎる、間抜けすぎる。不思議な感動に襲われ、体中の力が抜けた。

 「ヤーホー、ハーホー、ヤーホー、ハー、ヒンココ、チャイココ、チャイチャイ、ホーイ」人形たちの動きに輪をかけて脱力感を増させるのはスピーカーから大音量で流されるこのようなお囃子。日本語として捉えられる単語は一つもない。この中に出てくる「ヒンココ」という言葉、これが祭りの名称になっているのは疑う余地もないのだが、この意味するところは何?わからない。何人もの地元の人に訊ねたが、誰しも「さあ~?」と首を傾げるばかり。

出番を待つ農民人形

 出番を待つ農民人形。籠に和紙を貼って彩色したその顔はご覧の通り。ひとりずつ顔の造作や表情がちがい、不思議な魅力を発している。


時々ぴょんぴょん飛び跳ねるだけの人形たち

 人形たちは時々ぴょんぴょん飛び跳ねるだけ。この間抜けさは天下一品!


ひんここ祭りデータ
約500年前から伝えられる五穀豊穣を祈願する祭り。国選択無形民俗文化財指定。今年(2013年)の開催日は春(4月14日)秋(11月23日)。開催場所は岐阜県美濃市大矢田もみじ谷。問い合わせ先は美濃市観光協会(0575-35-3660)へどうぞ!
  

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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)