くらしのたね

煙突


 我が家の3階から東方向に目をやると、林立するビルの先にひときわ高い塔が見える。高さ150mのその塔は目黒区の焼却炉の煙突。小さな路地を散歩中、迷ってしまったら周囲360°をぐるりと見回してこの塔を探し、自分の位置を確認する。この塔は目黒のランドマークでもあるのだ。

 塔のある風景はいいものだ。エッフェル塔、東京タワー、スカイツリー……人はそれらの塔が見える位置に住みたがるではないか。我が家からエッフェル塔が見えるわけはないが、東京にある2つの塔も見えない。でも、ゴミ焼却用の煙突は見える。なかなか素敵なんじゃないか、と思っている。

 中目黒駅から目黒川の河畔を水の流れにそって歩いて行くと、車両進入禁止の道があり、散歩人にとっては絶好の空間。その中間地点にこの塔はある。思わず撮影したくなる、まるで絵画のような風景である。

 
目黒川の湖畔沿いの煙突




雲に溶け込みそうな煙突

冬の煙突


こちらは冬の煙突

 この煙突を目にするたび、ウズベキスタン・ヒワのミナレットを思い出す。 ミナレットとはイスラム教礼拝所に付随する、礼拝時刻の告知を行う塔のこと。ヒワのミナレットは美しいタイルの装飾が施されていた。目黒の煙突は最上部に2本の青いストライプがあるだけ。似ているわけではないのにヒワのミナレットが頭に浮かぶのはなぜなのか。この煙突のてっぺんからコーランの美しい音色が流れてきそうな気配を感じるから……多分そうなんじゃないかと思う。

 いずれにしても塔のある風景はよろしゅうございます。涼しくなったら目黒川散歩をして、この煙突を見上げてくださいませ。 



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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)