くらしのたね

最強の暖房寝具


 血液の流れが悪いのか、ウチの夫はしょっちゅう「寒い、寒い」と言っている。普通のパジャマじゃ寒いと、フリース上下に身を包んで寝ても、腰の辺りが寒い、手首が寒い、首が寒い、足首が寒いと愚痴るのである。私だって寒いけど、あなたが言うほどには寒くないわ、冬なんだから仕方ないでしょ、と心の中で言いながら、何かいい解決法はないものかという思いは、いつも頭の片隅から消えない。

 と、先日、ネットサイト上で「これは!」というものを発見。Sleeping Bagという人型の寝袋である。筒型の寝袋とは違い、腕も足も自由に動かせる寝袋。ファスナーで手の先も、足の先もしっかり閉じることができ、体の熱を逃がさない。ん、これは問題解決になるかもと思い注文した。

 数日後、Sleeping Bagが届き、さっそく身に包んだ夫。家のテラスに寝転んで「早く写真を撮るように」と私をせかす。ん~、大きなぬいぐるみみたいでかわいいが、こんなところに寝転ぶと「家なきおじいさん」にも見える。立ち上がって歩いていると紺色のグリズリーのようにも見える。滑稽さと愛らしさ、どちらをとるか。意見が分かれるところかもしれないが、私的にはOK。

 
最強の暖房寝具

 その夜、Sleeping Bagを身にまとった夫は「掛け布団不要!」と断言してベッドに横たわり、やがて寝息を立て始めた。しばらく後、隣のベッドを見ると、まるで無重力の空間に浮いている宇宙飛行士のような寝姿。世界で初めて有人宇宙飛行を成功させた【ユーリィ・ガガーリン】(1961年)を思い出した。

 翌朝、彼は「これはいい。全然寒くなかった」と感想を述べた。とてもぐっすり眠れたようだ。最強の寝具をゲットしたのかもしれない。問題解決か?

 ただしこのSleeping Bag、上半身を脱がなければ用足しができないので、夜中に何度かトイレに起きる女子には適してはいない。女子仕様のSleeping Bagも開発してくれたらいいのに……トイレの近い私はそう思ったのである。


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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)