くらしのたね

水仙:清純なのか、ナルシストなのか


 最近は老後を過ごすために入手した三浦半島の家で、週末の2~3日間を過ごしている。新しい土地に馴染むための試運転中、と言ったらいいだろうか。夫は野菜を育てるのだと、朝から日暮れまで、「粘土質だから困った」とぼやきながら、庭を開墾中である。

 「水仙がすごいよ!」 庭から大声が聞こえたので庭を見下ろすと、庭を取り囲むように水仙が可憐な白い花を咲かせている。 「わ~すごい、きれいだねえ」 答えながら思い出したのが「七つの水仙」という曲。19歳だった夫がギターを奏でながら歌ってくれたブラザーズ・フォー(USAのグループ)の曲だ。

 詩の内容は……僕には大邸宅も土地もお金もないけれど、君に七つの水仙をあげることはできる……とまあこんな感じ。この曲をきっかけに恋におちたというわけではないが、水仙を見ると、甘酸っぱい幸せ気分、将来へのもやもやした不安、的を外した張り切りなど、あの頃自分のまわりに漂っていた様々なことが、むやみに懐かしく思い出される。

 ナルシストのいわれを知ったのも同じ頃のこと。ナルシス(ナルキッソス)とはギリシャ神話に登場する自己陶酔する美少年。水面に映る自分の姿に恋をしたが、想いは叶わずにやつれ果て、ついに水仙になってしまったという話。 60年代のヒット曲とギリシャ神話……水仙のイメージがちがいすぎる!
 
水仙

 さて、あなたは水仙にどんなイメージを抱きますか? 金はなくても愛があれば、の「七つの水仙」ですか? 自己陶酔型の「ナルキッソス」ですか?
 

 私ですか?

私は結構ロマンチストですから、清純な「七つの水仙」に1票を投じます。



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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)