くらしのたね

コリンキーの正体

 友人から『食べたことないので、どんな味がするか分からない』という説明付きで、『生食用/コリンキー』と書かれた野菜をもらったのは4年前の夏。私の心を打ったのは、美しい黄色と美しいフォルムの外観だった。コリンキーの正体が知りたくなり食材辞典を調べたが見つからなかった。インターネットにも出ていないだろうな、と思いつつ「コリンキー」と入力すると、いくつもの記述が現れた。



こぐれひでこ|コリンキー


 コリンキーはカボチャの仲間。一般的にカボチャは加熱して食べるが、これは生食用に品種改良されたもの。皮も軟らかいので種以外すべて食べられるという。
 素性が分かってひと安心。二つに切って種を除き、スライスしたものをマヨネーズにつけて食べてみた。味に特徴はないが、割れるような食感がなかなか心地よい。だけど青臭さがちょっとばかり気に掛かる。ピクルスにしたら青臭さが消えるのではないかと思ったので、やってみた。

 米酢と水を同量、砂糖と塩(好みの味に加減)を鍋に入れて沸騰させ、ピクルス液を作って冷やす。厚さ約5ミリのくし切りにしたコリンキーをガラス容器に入れる。ピクルス液を注いでフタをし、冷蔵庫で漬け込む。
 翌日つまんでみると、カリッという音がして割れた。生食よりも簡単に割れた。気持ちがいい。薄焼きせんべいの感覚に似ているが、もっとあっさりとカリッと割れるのである。この感触はこれまで体験したことがない。青臭さかったコリンキーはピクルス液の甘酸っぱさを身にまとい、しっとりした味わいに変身していた。
 去年、コリンキーをぬか漬けにしてみたら、ピクルスとはまた違う美味しさ。白いごはんのお供によく似合うのである。


コリンキーのぬか漬け


 一週間前、今年初めてのコリンキーを入手。毎日ぬか漬けにして食べている(マンゴーの色みたいに黄色なのがコリンキー)。コリンキーのぬか漬けはしっかり漬け込んだ方が美味しい。こんなに美しい、こんなにかれんな姿のこの野菜が、こんなに不思議な美味しさを秘めているなんて……天はコリンキーに二物を与えたのだろうか。みなさん、見かけたらぜひともお試しくだされ。



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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)