くらしのたね

血圧計

 かかりつけの診療所へ検診に行ったら、「家で血圧を測っていますか?」と訊かれた。「ここで測って貰っていますから測っていません」と私。「いや、医療機関で測る血圧はあてになりません。家庭で測る方が正確です」と先生。私の年齢(69)を考えると、毎日血圧を測ったほうがいいとの事。

 というわけで血圧計を買った。OMRON。

血圧計|こぐれひでこ


 反射的にベトナム・ホーチミン市チョロン地区にあるカフェのマダムにOMRONの血圧計の使い方を説明した事を思い出した。

 【國請】(マダムが言う:以下Mと記す)【日本】(私が言う:以下Hと記す)【◯中国字是】(M)【不◯中国字】(H)【◯英文】(M)【是】(H)……というような筆談トークが続き(◯は日本語にはない漢字。でもなんとなく意味はわかった)、マダムが取り出したのはOMRONの血圧計。

 【何処買】(H)【親戚送】(M)【日本?】(H)【是】(M)。

 日本語の解説しかないので教えてくれとマダムが言っているのだと理解して、筆談説明をしたのだ。「食後1時間:静」「排便後20分」「禁飲酒」「禁入浴」「禁運動」………旅の日記にはそのときのメモが残っている。

 あの日から17年が過ぎて、私は記憶の中のアレととてもよく似た同じメーカーの血圧計を手にしているのだが、書かれている注意事項が17年前に中国系ベトナム女性に説明したのと微妙に違っている。

 手元にある注意事項は「朝の血圧測定」のみで、「起床後1時間以内」「排尿後」「朝食前」「服薬前」とあるだけ。あれれれ、私が日本語をちゃんと理解していなかったのか、それとも血圧測定のやり方が変わったのか……。

 あの時のマダムは血圧を正常値に保って、今もお元気だろうか。血圧計からベトナムの旅を思い出すなんて、なんともへんな感じ。



こぐれひでこ「くらしのたね」バックナンバー

やさしい手作りのある暮らし てころはこちら

プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)