くらしのたね

作品と作者との関係

我が家に食器と呼べるものはたくさんあるけれど、セット食器は皆無。
いつも衝動買いをするので、中途半端にバラバラである。有名な食器会社のものも、著名作家の作ったものも、お値打ちの骨董陶器もなにもない。ゆえに我が家で開かれるごはん会はフォーマルというものとはほど遠いものになる。まあ住人がフォーマルとは縁遠い生き方をしているので、ちょうどいい具合なのだが……。

我が家にある食器の中で出自がはっきりしているのは今回紹介するこの陶器。制作者は雑誌編集者だった友人である。定年を待たずに退職して10年。退職後間もなく自宅に電気の窯を導入して作家生活に入った。


初期の作品は練り込み技法

初期の作品は練り込み技法

墨流し染めのような模様がいい感じだ。ただし、きちんとしているようでいて、どこか間が抜けている。なんとも緩い感じは作者の人柄そのもの。ほのぼのとした愛嬌がある。



今年は真っ白な角皿

今年は真っ白な角皿

角皿が欲しいと思いながら、彼女の展覧会へ行ってみたら、なんと大中小の角皿が並んでいた。以心伝心か?喜んで各皿6枚ずつをセット買いし、これならフォーマルごはん会も夢じゃない? と思ったのだが、皿には微妙な歪みがあり、座りが悪い。やはり我が家はフォーマルに無縁のようである。しかしこの皿には彼女の人柄と同じようなゆったりした時間が流れていて、料理ものどかそうに見える。とてもいい。

すべて作品と呼ばれるものには作者の生き方や人柄が現れるもの。私はそういうことをやってきたのだろうか……ふと我が身を振り返ってヒンヤリした気分を味わったのである。


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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)