くらしのたね

人を魅惑する花の香り


 我が家は路地のどんつきにあり、門から家の玄関まではご覧のような花盛り。とはいえこの写真は2週間ほど前のもの。近隣の家に咲いていた桜や桃の季節が終わったと思ったら我が家のサツキが満開を迎え、それを追いかけるように羽衣ジャスミンが咲き誇っていた頃の様子だ。数年前にお隣(左手のレンガの家)から伸びてきた羽衣ジャスミンは我が家の木々に蔓を絡ませて、いつのまにかお隣からの引っ越しを完了した模様。そしてご覧のように絢爛豪華(画面左手前の白い花群)な花を咲かせる。

 花の姿も美しいのだが、何よりも存在感を示すのはその甘い香り。おそらく我が家を中心にして50m四方にその香りをただよわせているはず。大通りから路地を曲がった途端、甘い香りが漂い始め、思わず深呼吸をする。そのいい香りの発生地が我が家であることに、たまらない優越感を覚えるのである。


こぐれひでこ

 羽衣ジャスミンの香りも心をトロリとさせてくれるのだが、私がダントツに好きなのは柑橘系の花の香り(果実ではなく花の香り!)。あと数日でジャスミンの香りは力を失い、柑橘系の花のさわやかな香りが漂い始めるのだろう。我が家のレモンも小さな蕾を膨らませている。ミカンの花の香りに魅了されたのは、十数年前に訪れた山口県萩市でのこと。5月中旬だった。町の隅々まで漂うミカンの花の香りに陶酔したのである。香りに包まれながらの町歩きは恍惚そのものであった。
そんなわけで萩市は「ミカンの香りの町」として強い印象を残した町なのである。その体験以来、私は柑橘系の花の香りにぞっこん。もっともっと深く感じたくて、時にはこのように鼻の穴に花を差し込んだりしている。間抜けな行動なのは百も承知だが、それほどまでにミカンの花の香りをかぎたいのだ。


こぐれひでこ

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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)