くらしのたね

ささやかな発想の転換


 どこの家庭にも「醤油差し」があると思うが、わが家にはない。もちろん過去にはあったのだが、あの醤油差しなるものは入れっぱなしにしていると濃くなってしまい香りも飛んでしまって不味くなるのがいやだった。濃度が増した醤油は不味い! きちんとした人ならちゃんとした管理をするのだろうが、「まあいいか!」が口癖の私には向いていない容器なのである。


こぐれひでこ ささやかな発想の転換





 醤油がいつも新鮮でおいしいためにはどうするべきかと考えたとき、使う分だけ卓上に出せばいいんじゃないの、と思いついた。そこで選択されたのが写真(1)のミルク容器。本来は紅茶やコーヒーの友として添えられるアレである。ひとり当たり1度に必要な醤油は多くみても20cc。それでもたいていの場合余るので、そのときは醤油の大瓶に戻す。こうすると無駄もなく、醤油はいつも新鮮である。あ、醤油はね、冷蔵庫で保管した方がいいんだって。ずいぶん前、最大手の醤油会社の人がそう言っていた。その頃すでに醤油を冷蔵庫に入れていた私、その会社の人にほめられたのでよく覚えている。この容器、ミルクやガムシロップを入れるのはもちろんのこと、お酢や日本酒(鍋物のとき)も入れて、各自にひとつという状態で卓上にスタンバイさせている。

 写真(2)、本来の役割は中国茶を入れるときにお湯を入れる容器だが、鍋物をするとき、ポン酢を入れたり、割り下を入れたり、だし汁を入れたりと活躍中。焼酎のお湯割りのときにも便利。中国茶、日本茶で活躍するのはもちろん!

 写真(3)は中国茶用の小さな茶碗。香りをかぎながら中国茶を楽しむためのものなのだが、わが家ではワサビやショウガおろし、トウガラシや山椒、いりゴマやネギなどの薬味を入れたり、塩辛やタラコおろしなどの箸休め的料理を入れたりして活躍してもらっている。

 ちまちまと小さな容器が並んでいる食卓が私はとても好き。鍋物のときなど《アレとって?》《ソレじゃなくてアレ?》なんていう声も飛び交わず、落ち着いて鍋の味を味わえるのもいい。「これは○○用だから」なんてことを考えず、別の用途として使う。これはささやかな快感を生む。とても小さいけど《発想の転換》とはこんなところにもあるんじゃないでしょうかね?

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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)