くらしのたね

夏の終わり/秋の始まり/懐かしのメロディ


 ああ、やっと涼しくなった。涼しいとこんなに体が楽なのか。これまで何度も夏から秋へ移行する季節を体験してきたはずなのに、今年の夏の終わりはことのほかありがたく感じる。

 涼しかった先日、湘南の海岸はどうなっているのだろうと思い、立ち寄ってみた。あ、ちなみに、立ち寄ったのは、逗子海岸や由比ケ浜や茅ヶ崎のサザンビーチなどのような有名海岸ではなく、横須賀市秋谷にある小さな海岸。それでも盛夏にはビーチパラソルとデッキチェアがちらほらと並んでいて、海水浴をするには理想的な人出の浜辺だった。

 あの海岸には秋の気配が漂っているのかな? そう思ったら、1971年にヒットした南沙織(現在篠山紀信氏のご夫人)の曲『17歳』のメロディが頭の中に流れ始めた。
海岸への坂道を下りながら歌っていると、あれ、これ、秋の海の歌じゃない? これは17歳の少女の恋の歌? 寂しくなった秋の海の歌じゃなかったことに気がついた。

 こりゃ、大間違い! そこで思い出した別の曲は1970年にトワエモアが歌ってヒットした、タイトルもずばり『誰もいない海』。そのときワタクシ、23歳。若い頃覚えた歌は忘れないものでございますねえ。もっとも近頃の歌は覚えることすらできませんが。

 歌いながら海岸へ到着。砂浜に残されたいくつもの足跡が、つい最近まで夏だったことを物語っている。砂浜に座り、誰もいない海か。いいな、こういう海……うっとりしながら左手に目をやると、あらら、ヨットを仕舞っている人がいる。夏の終わり。秋の始まり。心地よい季節である。懐かしのメロディも心にしみる。

 
こぐれひでこ 秋谷



秋谷海岸


 



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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)