くらしのたね

一目惚れの真価


ただいま東京の暑さを逃れ、長野の山に避難中です。山を吹き抜ける風はさわやかで涼しい。(暑い中でお暮らしの皆さん、ごめんなさい!)

ところでこの丸っこい形をしたティーセットは涼しい山の住人。20年余り前にパリの蚤の市で手に入れたものです。蚤の市デビューを果たしたのは20代に暮らしていたパリ時代。毎土曜の夜明けとともにでかけ、血眼になって破格値の掘り出し物を探していました。あの体験がアダとなり、懐に多少の余裕ができた今も、蚤の市で大枚をはたくことができず、蚤の市に一歩足を踏み入れた途端、自動的に20代の自分が蘇って、ガラクタの山ばかりが気になって仕方がない。というわけで値段は覚えていないけれど、このセット、多分、いや絶対に安かったはず。ティーポットはない、ソーサーはない、砂糖入れのふたがない、ミルクポットがない、というナイナイ尽くしのセットですもの、破格値だったはずです。大きなポットは多分、紅茶用のお湯を入れておくものなのでしょう。1.8Lも入ります。お湯が冷めないのか、と心配になりますが。


ティーセット
なにゆえそのような欠損品を買ったのか。当然どなたでも???と思う疑問点でしょうね。答えは簡単、《形と色がかわいかったから》。白に近い乳白色と暖かみのあるブルーという配色、卵のカーブを思わせる曲線、全体にやさしい雰囲気を漂わせながら、りりしさを備えているところ、そのすべてが私の好みのツボにはまりました。使い勝手よりもデザイン重視の選択でした。ところがです。このカップ、紅茶はもちろんのこと、アイスクリームやヨーグルトにもナイス!イチバン素敵に見えるのはパンプキンポタージュを入れたときです。黄色と白とブルー、その姿を想像してみて下さい。素敵じゃありませんか?

今朝、テラスでミルクティを飲みながら、《好き!と思ったことやものは、可能な限り入手しておくもんだなあ》としみじみ思ったのでありました。一目惚れを甘く見てはイケマセン!


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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)