くらしのたね

買うべきか、買わざるべきか、悩ましい食器


 我が家にはすでに使い切れないほどの食器がある。その上、数年以内に新しい家に引っ越すことを決めているので、今私がなすべきことは所持品を減らすこと。先週触れた「断捨離」は私に与えられたイチバン大きな課題なのである。なのに、なのに、先日散歩中に覗いた生活雑貨店でこんな食器を見つけたとき、「買ってはイケナイ!」と自らに警告を出したにもかかわらず買ってしまった。

 かねがね、ちょっとしたディップや佃煮やつまみなどを容れる小さな深い食器があったらいいのに、と思っていたのだが、店にあったそれは私の頭に浮かんでいたものと近い形をしていたのである。警告の効き目は多少あったらしく、まずはお試し! と自分に対して言い訳をしつつ、買ったのは2つ。横16cm、縦8cm、深さ4.5cmのこれ、値段は1個480円なり。

 しかし最初に使用したのは、ディップでも佃煮でもなく、野菜のゼリー寄せのテリーヌ型の代用として。その頃、野菜のゼリー寄せ作りに凝っていて、ひとり用のテリーヌを作りたいと思っていたところだった。買うときにはそんなアイデアなど頭に浮かんでいなかったのに、不意に思いついたのである。そして結果はご覧の通りまずまずの成功。ちなみに左はニンジンとチンゲンサイの、右側はトマトの、昆布とカツオだしをベースにした和風ゼリー寄せである。小さくてかわいくて、おいしい。



ゼリー寄せを作った翌日、かねがね考えていた使い方をしてみた。左の器には塩昆布とシラスの沖漬けを、右の器にはズッキーニの梅醤あえとラディッシュの漬け物。白いごはんと一緒に食べる。


ディップや佃煮やつまみなどを容れる小さな深い食器

 いや、これは、かなり活躍してくれそうな食器じゃないか。客人を招くときにいいんじゃないか? こういうタイプの食器、我が家にはないし……だから、もっと買いたい。10個ぐらい買いたい。でもねえ、今、私がなすべきことは、既にあるものを減らすこと。ああ悩ましい、悩ましい。たかが食器、されど食器。しかし器によって食べる喜びが変化するのも事実。買い足すべきかあきらめるべきか、心は揺れている。おだやかな日常の中にも悩みの種はつきないのである。


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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)