くらしのたね

こだわりのスポンジとブラシ


 私は「こだわりのある人」と言われることに反発を覚えていた。雑誌の取材で「こぐれさんはこだわりがあるから」なんて言われると、「物にこだわるような人間にはなりたくない!」などと反抗的な態度を取ったものだ。インタビューにこられた方は「こだわる人」=「物の善し悪しを知り尽くした人」という褒め言葉で言っているのは分かっていたのだが、私の反発理由は「こだわるって、何かにとらわれて自由じゃなくなることでしょう」ということだったのだ。  しかしである。TVやラジオから「こだわりの○○」などという言葉が聞こえてくると「何がこだわりだ~?」と敏感に反応してしまうのは、もしかして私は「こだわる」という言葉に「こだわっている」のではないか……最近自信を失っている。我が家にある椅子やテーブルや食器など、ほとんどすべてのモノは私から合格点を与えられたモノ。選ぶという行為自体、こだわりなのかもしれない。反発しながらもこだわりの世界に入り込んでいたのか。微妙な気分だ。


こだわりのスポンジとブラシ


  身の回りにあるモノの中で、「これじゃなくちゃイヤ!」と思っているモノ、それはなんだろうと探してみた。そして発見されたのは、食器洗い用のスポンジとブラシ……って、こだわりの対象がちっちゃいけど。

  魚の形をしたスポンジはいろいろな色が売られているのだが、私が買うのは白とブルーの配色のみ。売り場でこれを見つけたときは2個を買う。大きな食器を洗うときにはお腹あたりを中心に使い、小さなものを洗うときにはしっぽの方を使う。便利である。それだけじゃなくて、色も姿もかわいい。ブラシはドイツ製(高価なものではない)。つまみ部分を持ってまな板を洗う。ジャガイモを洗う。便利だ。ナチュラル素材に加え、とぼけた表情の顔が描かれているのも好き。これも見つけたときには2個を買うことにしている。ナイロン素材で作られた同じ形のブラシが売られているのをよく見かけるが、素材&どぎつい色がイヤなので、私の合格点は得られない。

  とまあ、今頃になって分かったのだが、私はやっぱり「こだわりの人」であるらしい。それでもなお、こだわることがナイスなことなのかどうか、私にはまだ分からない。いったい、こだわるってどういうことを指すのだろう?


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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)