くらしのたね

アーティチョーク

 2年前の今頃、三浦半島の野菜直売所でアーティチョークが売られていた。
「あっ!」と思ったその瞬間、そのすべてを隣にいた客が掴んでいた。
下の写真は、がっかりした私を気の毒に思った直売所の奥さんが畑まで案内してくれた時のもの。
土から生えているアーティチョークを見たのはその時が初めて。
アーティチョークとは英名である。
フランス=アルティショー、イタリア=カルチョッフィ、スペイン=アルカチョファ、日本では朝鮮アザミという。


こぐれひでこ|アーティチョーク


 初めてアーティチョーク畑を訪れた翌年(つまり去年)、
三浦半島にある数軒の直売所にアーティチョークが並んだ。
東京のスーパーでは目にすることの珍しいこの野菜が、この辺りにはなぜこんなに???
一軒の直売所の看板娘(八十歳のおばあちゃん)に質問すると、明快な答えが返ってきた。
『この辺り一帯はねえ、明治時代から花の栽培が盛んで、朝鮮アザミは観賞用に栽培されていたんです。だからねえ、珍しくもないの』…...つまり三浦半島の人々にとって、アーティチョークは馴染みの植物だったというワケ。ただし、食用にされることはなく、もっぱら観賞用だったという。


こぐれひでこ|アーティーチョーク


 欧米では若いつぼみを、蒸す、ゆでる、揚げるなどして食用にする。
ただし可食部分はガクの付け根部と花托部のみ。非常に少ない。
欧州の市場に並ぶ大量のアーティチョークは初夏から夏にかけての風物詩。
アーティチョーク畑も美しいけど、単体でも素敵でしょ?
これは観賞用にも適してますよねえ。花が咲くと大輪のアザミの花が開くのですから……そりゃあまあ、食べられるかも?なんてこと、考える余裕、なかったかもしれません。納得です!


こぐれひでこ|アーティーチョーク



 しかしです。アーティチョークのおいしさは格別。
私が初めてアーティチョークを食べたのは43年前のフランス。
不思議な食べ方に興味を抱いて注文してみたら、私の味覚に合っていた。
以来、この季節にはアーティチョークが食べたくなるのだ。
ではどのように調理し、どのように食べたらいいのか、説明しよう。
(フランスでもっとも普通の調理法です)


 『作り方』

アーティチョークの軸とガク(つぼみの様に見える部分)の上部3分の1を切り落とす。
たっぷりのお湯にレモン汁を加え、アーティチョークを十数分ゆでる。
湯煎で溶かしたバターにレモン汁と卵黄と塩を混ぜてソースを作る。

 『食べ方』

ガクをむいてソースをつけ、付け根の軟らかな部分を歯でしごくようにして食べる。
何枚も何枚も食べる(おしゃべりなんかしている余裕はない)。
芯に近くなるとトゲトゲの部分が現れる。
ここが花になる部分なのだが、とげとげしていて食べられないのでスプーンでえぐって捨てる。
その下に現れるのがアーティチョークハートと呼ばれる花托の部分。
ハート部分にソースをつけて、じっくり味わっていただきたい。

ガクと花托、どちらの食感もユリネやソラマメやイモ類に似たでんぷん質のおいしさ。
食べ終わった後の皿には非可食であるガクなどの残骸がどっさり。
大仕事をやり終えた時に似た達成感で満たされる。
もうじきあの味が食べられる、嬉しいなったら嬉しいな。




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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)