くらしのたね

同じタイル、同じテラス


 はじめて会ったIさんが見せてくれたスマートフォンの写真にびっくり! いや、びっくりした~。その写真は我が家のテラスだったから。いや、厳密にいうと、ほぼ我が家のテラスだったから。きけば彼女、建築会社の代表で、彼女の会社でその家の施工をしたのだという。

 「ちょっと前に、親戚の方からタイルをどこで買ったのか、訊かれたこと、ありませんか?」と彼女が言う。確かに夫の甥からそんな質問をされたことがあり、「モロッコのフェズ郊外にある陶器工場地帯を自力でまわり、一番安いところで買ったので、その工場の名前も分からない」そっけなくそう答えたことがある。そうか、写真の家の主は甥の知り合いなのか。
 「まさか、まさか、フェズまで行ったんじゃないでしょうね?」彼女に尋ねると「行きましたよ。私も」という答え。じぇじぇじぇ!

 「タイルの並べ方もほらこの通り、こぐれさんちと同じにしました」
これはたまげた驚いた。タイルの配色も並べる順序も我が家と同じだ。このランダムな並べ方、私けっこう時間をかけて造り上げたのに……よくそこまでやったわねえ。あまりにそっくりなので感動してしまった。フェズまでタイルを探しに出かける酔狂な日本人は、私たちだけだろうと思ってちょっと威張っていたのに……いるんですねえ、妥協を知らぬ情熱的な人はねえ。

 雑誌に紹介された我が家を見ただけで、そこまで気に入ってくれたとはありがたくて感激するが、我が家と同じテラスを持つ家がもうひとつ存在するという事実は……少しだけ微妙な気分。ああ、これは私のエゴなのか?



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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)