くらしのたね

自然も一緒に食べちゃおう!


 遠足で食べたおにぎりがおいしかった。運動会のおにぎりもおいしかった。サイクリング、ハイキング……野外で食べるものは、みんないつもよりずっとおいしかった。特別なおにぎりじゃなかったはずなのに。

 25歳のときにパリに住み始め、道沿いに備えられたテーブルでお茶を飲み、食事をするという体験を重ねるうちに、戸外での飲食は大きくなってもおいしいものなのだ、と改めて思った。その頃住んでいたワンルームには奥行き1m足らずのベランダがあり、そこに無理矢理テーブルと椅子を出して食事をし、パリジェンヌ気分に浸ったこともある。柔らかな風に肌を撫でられながら、飲んだり食べたりしゃべったりした心地よい経験は、それ以降、私の生活スタイルを決定的に変えた。

 32歳で住んだ家のベランダ、52歳のとき造ったわが家のテラス、61歳のとき造った山荘のベランダ。ベランダは何回も何回もダイニングルームになった。戸外の食事は何歳になっても心地がいい。幸せな気分に満たされる。


こぐれひでこ|木漏れ日のテラスでの昼食
こぐれひでこ|霧が立ちこめる天空のベランダでの夕食
こぐれひでこ|藤祭り

 先日、桜のつぼみがちょっとだけ膨らみ始めているのを発見した。もうすぐ春。今年の冬は本当に寒かったけれど、もうすぐちゃんと春は来る。 春が来たら、満開の桜の下で宴会をするのもヨシ、狭いベランダで朝食を食べるのもヨシ。お日様と風は、いつもと変わらぬ食事をリフレッシュしてくれる。というわけで、今週の私のおススメは「自然も一緒に食べちゃおう!」です。

 

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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)