くらしのたね

志半ばで断念した《私だけのスタンプ》


 ずいぶん前、「最近、若者たちに文具が流行っているみたいだよ」と友人から聞いたとき、「ヘッ、そんなことあるの~?」と信じようとしなかった。ところが先日、私の住む町にあるステーショナリーグッズ店に足を運んでみたら、狭い店内に若い男女がたくさんいて、「何かいいものないか」と目を皿のようにしていたので驚いた。その店の商品はレトロでノスタルジックでシンプルで楚々としていてオッシャレ~。ことに'60~'70年代に青春を過ごした私には、たまらないほどの濃厚なノスタルジーを感じるグッズ。手作りスタンプキットのコーナーで足が止まる。これカワイイ。これで自分のスタンプを作ったら素敵! と購入したのがこれ。


私だけのスタンプ | こぐれひでこ くらしのたね |つくる つかう いろどる tecolo


 Shiny EASY TO USE D.I.Y. PRINTING KIT (made in Taiwan)
オレンジ色のゴム製活字には《小文字》と《大文字》の2種類があり、アルファベット、アラビア数字、@、&、%などの記号も含まれている。
手前にある黄色いものは1列~5列の溝のある長方形が5種と楕円形、円形、合計7つの、文字をはめ込むスタンプ本体。溝の中に活字をはめ込んで、自分のスタンプをD.I.Y.するのである。小さなゴム製活字をつまむピンセットのようなものも、スタンプ台も揃っている。

 いそいそと作り始めた。まずは楕円形のものを作成。スタンプしてみる。のどかなかわいらしさである。うふふ満足。次は住所を、と4列のものを作り始めたらAが1つだけ足りない。台湾製とはいえ、このスタンプはアルファベットを使用する人たちのために作られたものなのでAEIOU母音の文字が少ないのだ。東京都目黒区をアルファベット表記するためにはTOKYO-TO MEGURO-KU。すでに4つのO2つのUが必要。こぐれひでこもまた、一音ごとに母音が必要。みなさんの名前だってそうでしょ? 日本語には大量の母音が必要なのだ。

 ネットでは別売りのゴム製活字が売られていたのだが、どれもSOLD OUT! ン~この活字、文字ごとに別売りしてくれたらいいのに。そしたらもっといろんなスタンプを作って遊ぶことができるのに、ホントに残念!

 でもね、久しぶりに童心に帰って工作に熱中したので楽しかった。もっと作りたい。もっといろんなものを作りたい! 志半ばであきらめなければならなかったこの遊び、ほんとに残念至極です。

 

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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)