くらしのたね

おデブは感じやすいのである


罪を感じない|こぐれひでこ

 駅までの道沿いに、最近こんな看板が登場した。
なんだこのコピーは! 食べることは罪を感じることなのか?
目にするたび、イヤな気分になる。

ここはダンスでやせる方法を編み出した女性が経営するスタジオにあるカフェ。「おデブは罪である」と即座に理解できるこのコピー、あまりに直裁的すぎる。脅しにも思える。これでいいのか? これで客が入るのか? このコピーに「おいしさ」のひとかけらも感じないが…それはおデブである私のひがみか?

 昨日、女性店員が看板脇に立っていたので訊ねてみた。 「罪を感じないパンケーキってどんなものですか?」と。 女性店員答えて曰く「野菜や果物が入っていて、太らないんです」。 「あ、カロリーが低いというわけですね」と返す私。 看板にあるグリーンとは野菜のこと、オレンジとは果物のことのようである。カロリーを押さえるためにハンバーグの中に豆腐を入れてみたり茄子を入れてみたり。 そんな方法なら昔からあった。 「罪を感じない」という表現は大げさすぎないのか? なんだあ、そんなことか!

 しかし次の角を曲がった途端、《私に衝撃を与え、質問までさせてしまったのだから、あのコピーは効果的なのかも》と思ってしまったのである。ギャフン!


こぐれひでこ「くらしのたね」vol.57

 家に戻ってPCの前に座り「まったく最近、おデブは肩身が狭いよ」「おデブのおばさんがいっぱいいる国で暮らしたいよ」と心の中でぼやき続けるうち、9年前に旅したポルトガルのアルバムの中から、おばさんたちの写真を拾いだしていた。イワシを焼くおばさん二人、ビーチを散歩するおばさん二人、みんな幸せそうじゃありませんこと?



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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)