くらしのたね

プレースマットの習慣・その始まり

我が家のテラスの端っこにレモンの木がある。
苗木を大鉢に植えたのは13年前のこと。
70センチほどの小さな苗木だったのに、今では3m近くまで成長している。
花が咲く初夏にはいい香りがテラスいっぱいに漂い、冬になるとレモンイエローの実がテラスを明るく彩る。

我が家に来てからずっと、いい匂いをふりまきながらかれんな白い花を咲かせたものの、一度も結実することはなかった。花が散った後、レモンの赤ちゃんはいくつも生まれたのだけれど、短期間のうちにどれもぽろりと落ちてしまい、成長することはなかった。

 「東京じゃ寒すぎるのかもねえ」とあきらめていたある日、小さな実を3個発見。
小さいながらレモンの姿をしていた。8年前のことだ。
それからというもの、毎年レモンは実を付けるようになった。
年を追うごとにレモンの個数は増えていき、今は60個のレモンが実っている。

 

ただ今実る我が家のレモン

いや、色づく前のレモンを花束にしてプレゼントしたり、我が家を訪れた何人もの人にあげたりしたことを考えると、今年の収穫は90個近くあったのではないだろうか。
市販のレモンが1個=100円として、9000円分のレモンが実ったということか。
まあたいした金額ではないな。


プレゼントにした緑のレモン

いやいやこれは金銭の問題ではない。

無農薬のレモンを枝からもいで調理に使うその瞬間、特別なご褒美をいただいた子供のように、ウキウキした気分になる。それは金銭よりもずっとお得なことではないだろうか。
ウンそうだ、と私は思う。


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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)