くらしのたね

蕪の紅白味合戦



赤蕪

 海辺の家に滞在していた週末、鎌倉に住む友人がやってきた。手みやげはご覧のような赤蕪。ブランド野菜として名を挙げている「鎌倉野菜」である。蕪の直径は12cm以上、実に堂々とした姿だ。元来、高級だとかブランドだとかという言葉に拒絶反応を示しがちな私であるが、この蕪の形、色、勢い……ブランド野菜として認めざるを得ないかも、と少しだけ信念が揺らいだ。力強さと優美さを兼ね備えたこの赤蕪、まるで鎌倉文化の象徴のようではないか。

 蕪は皮を厚く剥くべし! という一般的な教え通り繊維質の強い部分を切り取ると、白い肌が現れた。あれれ、赤じゃなくなっちゃうのか。ちょっとがっかり。しか~しである。半分に切ってみるとその中央には紅色の部分が残っている(ちょっとではあるが)。鰹と昆布のダシに薄味をつけ、煮てみた。真ん中の紅色が残っていますように! と祈りながら。

 すると、すると! 驚いたことに、だし汁も蕪も薄紅色に変わっていたのである。紅色の皮を取り除いてしまったのになぜ? まるで桃みたいな愛らしさだ。愛らしいだけではなく、その味、これが何とも上品なおいしさ。蕪の心臓部に京の貴族文化が隠されていたのか? これはおいしい! 鎌倉野菜をブランド野菜として認定することにした(もちろん、個人認定ですが)。

白蕪

  翌日、都内の居酒屋でご覧のように立派な白い蕪をいただいた。鹿児島から送られてきたばかりだと言う。蕪の径は前日のものと同じくらいだが、少しだけ細長い。皮を厚く剥いてみると、前日のものより瑞々しさが際立っている。薄切りして柚子と細切り昆布と一緒に甘酢漬けにした。2時間後に食べてみると、トロリとした食感が何とも優美。薩摩藩士はもっと剛力なイメージだったのだが、いやいや、とても雅な味わい。  期せずして2日続きでいただいた「赤蕪vs白蕪」の戦いは引き分け!  さて、今年の紅白歌合戦の勝敗はいかに? ま、どっちが勝とうが、どうでもいいことなんですけどね。



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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)