くらしのたね

旅の宝物、蓮のブーケ


 ある雑誌から「旅の宝物を紹介して」「宝物の撮影もしたい」という依頼があったので、中国の奥地で手に入れた陶器の置物を紹介することにした。そのことが、私にとって旅の宝物とはなんだろうと考えるきっかけになったのである。

 風景、文化の違い、人との交流、食事など、旅の思い出をたぐり寄せた結果、選考に残ったのはタイ国/チェンマイで出会った蓮のブーケだった。

 みなさまもご存知だと思うが、「微笑みの国」と言われるタイ国は信仰の厚い仏教国である。チェンマイには大小いくつもの寺院があり、えんじ色の僧衣を身にまとった僧侶たちをたくさん見かける。そんな街の中心地にある巨大マーケットの一画で、これらの蓮のブーケに出会ったのである。


蓮の莟

 

蓮の花托

 

 蓮の葉に包まれた蓮のつぼみ、ギュギュッとまとめられた蓮の花托。「愛らしさ」と「清らかさ」と「崇高さ」を持ったブーケ。凝視したまま、その場を離れられなくなった。蓮のブーケにひとめぼれしてしまったのだ。

 年若い僧侶たちが次々とそのブーケを買い求めていく。店の人の話だと、毎朝供える仏花であるらしい。ならば私も! と、寺院に供えようと買ったのだが、気がつくと金物屋で、花瓶として使えるモノを探していた。無意識のうちにホテルの自室に飾ろうと決めていたのである。タイの人が聞いたら憤慨するような私の行動である。


蓮花瓶

 

 しかし、部屋の一画に飾ったブーケに向かって、目覚めたとき、出かけるとき、戻ってきたとき、眠るとき、1日4回、手を合わせた。何事もなくチェンマイの旅を満喫することができたのは、このブーケたちのおかげだったのかもしれない。10日後、萎びてしまった蓮たちにていねいに手を合わせ、お別れした。ちょっと悲しかった。あれは私にとって、かなりランクの高い「旅の宝物」だった。いま、しみじみとそう思う。

 日本の花屋さんにも並んでいたらいいのに。



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