くらしのたね

あなたに似ているモノはなに?


 小学校の低学年の頃、私のあだ名は《デメキン》だった。面と向かって言われたのは口喧嘩したときだけだったけれど、陰でそう呼ばれていることは知っていた。小さくてやせていて目がデカイ。それがデメキンというあだ名の由来だということも知っていた。いい気分ではなかったけれど「ま、それもしかたがない」と思っていた。あの頃から60年が過ぎて、大きかった目のまわりの筋肉は緩んで目が小さくなってしまい、今では誰からもデメキンなどと呼ばれたりはしない。

 あなたは女優さんとか動物とかモノとか、何かに似ていると言われたことがありますか? 私はね、女優さんに似ていると言われたことがない。女優さんどころか誰か人間に似ていると言われたことがない。  大人になって最初に言われたのは《カエル》。しかも庭に置いてある置物のカエル。その時はがっくりして立ち直れそうになかった。だけど数年してから庭にあるカエルの置物に出会ったとき、似ているかもしれないと思った。哀しい!

 もひとつ言われたのは《アザラシ》。アザラシに似ていると言ったのは、他でもない我が夫。おデブな体型ではなく、額のあたりが似ているというのだ。まさか夫からそんなことを言われようとは……これまたがっくり来たのだが、アザラシの額のあたりをじっくり観察すると……残念ながら似ているのである。

 そして今、友人たちは私のことを、ムーミンのリトルミイに似ていると言い、このようなミイグッズをプレゼントしてくれるのだ。ミイは人間の女の子の姿をしているが、実はムーミン谷に住むトロールという妖精。初めて人間に近い姿の生き物に似ていると言われたことはまんざらでもないが、あの意地悪そうな表情のミイとはねえ……。しかし、友人曰く《姿形だけじゃなく、誰に対しても思ったことを言い、勝手気ままで気が強く、怒ると噛み付くこともあるという性格も似ている》。ヒエ~! 私は友人にそんな風に思われていたのか! ショックであった。しかし時間がすぎ、よくよく考えてみれば、そんな性格を私は有していないでもない。自分で思う自分とは、外見だけではなく内面もまた、他人が感じているそれとはちがうものであるらしい。う~む。


リトルミイグッズの裏表

 友人から贈られたリトルミイグッズのうちの二つ。裏表を撮影しました。



こぐれひでこ

 私の目はもう、ミイみたいに大きくないけど……友人のイメージはこの髪型からきているのね。ふむ、心を決めてリトルミイみたいに生きていくとするか!

 

こぐれひでこ「くらしのたね」バックナンバー

やさしい手作りのある暮らし てころはこちら

プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)