くらしのたね

ぬか漬けの運命は私の手に


 私はぬか漬けが好きである。かつて営んでいた超零細会社の社員からは「漬け物大王」というあだ名をつけられていたほど。ぬか漬け名人になりたいと何度もトライしたが、これまで成功したためしがない。かき混ぜるのを忘れていて異臭が発生したり、酸っぱくなりすぎたり……その時点でいつも「ぬか漬けは私の手に負えない!」と投げ出してきたのである。

 ぬか漬け名人になることをあきらめた私は、ここ十年間、冷蔵庫でおいしいぬか漬けができる、1週間混ぜなくても大丈夫、という市販のぬか床パックを使ってきた。たしかに、おいしいぬか漬けが簡単にできて満足だったのだが、先日不意に「はて、ぬか漬け大王と呼ばれた私が、こんなことをしていていいのだろうか?」と思い、「自力でぬか漬けをやろう!」と思い立ったのである。

 キッチンの片隅には過去に挫折したときの遺物《カメ》がある。陶器の《カメ》が裸のままキッチンにあるのはカッコ悪い。そのときそう思ったので《カメ》がすっぽり入る籠を探した。その2つがそのまま残っている。


ぬか漬けカメ




ぬか漬け籠

ネットで「ぬか漬けの作り方」を検索し、0からのスタートである。お手本にしたのはこちらhttp://tabegoto.com/nukahowto.html

 意気揚々とぬか漬け作りを開始。捨て漬け用の野菜を取り出した後、初漬けぬか漬けを食べてみると、酸味と塩気のバランスが私好み。期待が膨らんだ。しかしその1週間後、またもやぬか漬けが酸っぱくなってしまった。これまでならここで放り投げてしまったはずだが、今回の私はちがう。ネットで調べた。乳酸菌の増えすぎが原因だという。すべての野菜を取り出し、卵の殻を砕いて入れる。毎日2度かき混ぜて3日間ぬか床を休ませる。指示どおりにやって、あらためて昨日、キュウリとナスと蕪を漬け込んだ。1日経ったさっき、キュウリを食べてみたら……うまい! 私の望む味に向かって、ぬか床は再スタートを切った模様。

 こぐれ家のぬか漬け。その運命は私の手にかかっている。今度こそおいしいぬか漬けに成長させてみせるぞ! ただ今、私の鼻息は荒いのである。


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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)