くらしのたね

大人だって!


 この子は「青熊君」といいます。暮らしているのは私のベッドです。友人宅から我が家にもらわれて来て、もう30年近く経ちますから、人間なら何歳なのでしょう? 我が家にやってきたあの頃、この子は若々しい肉体でお肌もプリンとしていたのですが、ある日まざまざと観察してみると、肌に明らかなたるみが! パイルの布もすり切れているではありませんか! 気づいたのは今から6年前のことです。中身を引っ張ってみてもたるみは変わりませんでした。そのとき思ったのです。ぬいぐるみも人間と同じように年老いていくのだなあ、と。いや、これは大発見でした。


▼立ち姿とアップの青熊君は6年前のもの
立ち姿の青熊君
アップの青熊君
 えっ、なんですか? 60歳を過ぎた人がぬいぐるみと一緒に眠っているなんて、気持ちが悪い? あらそうかしら。何歳になったってかわいいものはかわいい。好きなものは好き。誰に迷惑をかけるわけじゃなし、それくらいの自由は許していただきたいと思います。

 少女時代を忘れない人と女盛りを忘れない人、女性を大きく分けるとその2つのタイプがあって、私は前者なのかもしれない。少女時代は大人になってからより楽しかった、と言っているわけではありません。楽しかった度合いは大人になってからの方が上だったような気がするのですが……でもなぜか、子供の頃好きだったモノに対する愛情のようなものは残っています。私だけじゃなく、そんな人は多分たくさんいるだろうと思うのですが…….どうなんでしょ? 

 しかしです。最近の青熊君は一人で立つことが出来なくなっています。何かで支えてあげないと立つことが出来ないほどに年老いてしまいました。どうやら私の年齢を遥かに超えてしまったようです。でも、でも、やっぱりかわいい青熊君。ずっと一緒に暮らしたいと思っています。
 大人だって、老人だって、仲良しのぬいぐるみのひとつくらい、持っていてもいいでしょ?!



▼現在の青熊君
現在の青熊君





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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)