くらしのたね

まずは行動あるのみ!

私たちが長野県の山の中に小さな山小屋を手に入れたのは8年前のこと。ぼんやりと何もせずに過ごせる性格の人ならば、木の葉の揺れる音しかしない山の中は天国なのだろうが、私の場合、何もすることのない生活はむしろ苦痛。ならばなにゆえ山に家などを持ったのか? と不思議に思われる方もいらっしゃるだろうが、その山小屋は標高1290mにあり、とても涼しいので、暑さが苦手な私にとって、それだけで天国。しかし暇なのが辛い! あるとき「工作をしてみよう!」と思いついた。山を下りて買い込んだのは大量の昔懐かしい「ちり紙」。


生まれ変わったちり紙

生まれ変わったちり紙

ちり紙を水で濡らし、粘土細工の要領で形を作り始めた。何も考えずに始めたのだが、ゴニョゴニョやっているうちに瓶の形になった。あ、かわいいじゃん! 丸めたり筒状にしたりぐにゃりと曲げたり、工作に夢中になって充実した時間を過ごした。完成したちり紙の瓶はどっしりと重かったのだが、2ヶ月後に訪れるとちり紙の軽さに戻っていて、叩くとコンコンと硬い音がした。まるで石膏で作ったみたいだ。


活躍の場ができた瓶

活躍の場ができた瓶

それから4年後、山小屋をすこしだけ増築。天井と鴨居の空間にこんなスペースができた。空間があるだけじゃ寂しいな、なにか置くものないかな。ちり紙の瓶を置いてみると、まるで4年前に製作したとき、この空間を予想していたかのようにぴったりと収まったのである。なんという偶然だろうか!


欲求が起きたらとりあえず行動しておくべし。自らの体験からそんなことを思ったのである。


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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)