くらしのたね

富士山は観世音菩薩?


 アナタ、富士山はお好きですか?
富士山が見える場所に来るとわくわくドキドキしますか?
私はね、します。
富士山に対して特別な信仰心を持っているワケでもないのに、なぜだろう。

 例えば長野県から東京へ向かう中央道を走っているとき、富士山はまだかな、まだかな、と富士山の出現が待ち遠しくて仕方がなくなる。その気分は長いこと会わなかった恋人と再会するときのような感じ。
 あるいは、新幹線に乗って西へ向かうとき、三島駅をすぎたあたりから、窓に頭をくっつけて、富士山の姿を探し始め、富士川の正面に富士山の姿を目にすると、思わず口を衝いて出るのは「あ、富士山だ!」という言葉。そこに富士山があるのは百も承知なのに、なぜか毎回「あ、富士山だ!」と感嘆してしまう。あこがれの人が目の前にふいに現れたような感じと似ている。

 間近にある富士山には、圧倒されるような美しさを感じるけれど、遠くに見える小さな富士山もまた魅力的。富士山の存在を確認できた、それだけで私は幸せな気分になってしまうのである。
 東京の高層マンションに住む友人の自慢はベランダから富士山が見えること。どこまでも続くビル群のずっと先に見える神々しい姿の富士山は、確かにたしかに、唯一無二の存在。高いところから観世音菩薩が救いの手をさしのべてくれているような気がして、心が安らぐ。  

 富士山が活火山だなんて信じたくない。どうか富士山が噴火せず、このままの姿で私たちを見守ってくれますように! ただただ、 そう祈るばかりである。

富士山

富士山はどこから見ても素敵。相模湾から見た富士山もこんな具合に素敵。





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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)