くらしのたね

「鏡よ、鏡、鏡さん、世界で一番美しい人は誰?」


 毎日、魔法の鏡に問うていたのは白雪姫の継母である王妃。鏡の答えはいつも「王妃様」だったのに、ある日「白雪姫」と答えられ、怒りに燃えた王妃が白雪姫の殺害を企てて……というみなさまお馴染みの、恐ろしいグリム童話。

 誰でも、いやたいていの人は、鏡の前を通るとき、鏡の中の自分を確認し、鏡に向かってこう訊ねるのだ「I'm OK ?」 残念ながら普通の鏡は何も答えてくれないので、自ら人はOKか否かの答えを出し、自信を喪失したり、自己満足に浸ったりする。鏡とは日常生活の中でちょいとしたアクセントを与えてくれ、表情を直したり、襟を正したり、自惚れるのを戒めたり、そんなきっかけを作ってくれる、ないと寂しいインテリアなのである。

 あなたの家の鏡はどんな所にある? 洗面台の上と浴室の脇、それだけ? ん~、確かに、日本の家に鏡は少ない。西洋の室内と日本の室内の違いは鏡を重用しているか否か、その辺にあるんじゃないか、と常々考えている。鏡は我が身を映すものだけではない(あ、白雪姫の継母はそうだったけど)。インテリアとしても重要な道具だと思うのである。

 リビングルームにひとつ、素敵なフレームを持つ鏡を掛けてごらんなさい。リビングルームは広がりを見せるだけでなく、鏡面に映り込んだ部屋の様子や家族の動きは1枚の絵画を創り上げるはず。廊下の壁面にひとつ鏡を掛けてごらんなさい。A地点からB地点へ移動するためだけだった廊下は生き返るはず。


鏡

 

 これは私の仕事場にある鏡。鏡面は縦83cm横62cm。フレームは縦110cm横90cm。グイグイと力強く彫られた木製フレーム。私が気に入っている鏡だ。

 鏡は1枚の絵画だと考えればいい。小さな絵(鏡)、中くらいの絵(鏡)、大きな絵(鏡)、いろんなサイズの鏡を導入して、生き生きした室内を造ってみませんか。日本のみなさんへの呼びかけである。



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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)