くらしのたね

つぼみ菜

 わが家では一週間に一度、三浦半島を南下して食料調達をする。
養鶏所、野菜直販所、パン屋、JAの直販所、港の鮮魚店、しらす専門店。回るコースは決まっている。立ち寄り先ではさまざまなアッと驚く情報や、ヘエエそうなんですか?と感心するような情報に出会うことがあり、それらのことも楽しみのひとつ。今年の冬遭遇した衝撃的な野菜はこれ。栽培者の女性から『これザーサイなんだけど食べてみて』とスライスしたものを差し出されたのがことの始まり。



こぐれひでこ|つぼみ菜


 食べてみると、コリッとした食感がおいしい。コリッとした中にわずかに感じるグギッとした食感はイタリアの冬野菜プンタレッレに似ている。食べさせてくれたのは葉っぱの根元に出来る脇芽部分。根元のごつごつした部分が漬け物にされて私たちがよく知る『ザーサイ』になるのだという。生の脇芽をスライスしてサラダやぬか漬けにして食べた。ザーサイってこんなおいしさをしているんだね、と言いながら。


こぐれひでこ|つぼみ菜の漬物


 ところがである。3月中旬、友人たちと集ったある飲食店で出会った蒸篭で蒸された野菜を食べたところ、明らかにそれはザーサイの味と食感。店主に訊ねると『つぼみ菜ですよ』とのこと。あれ? でもこれ、三浦で栽培しているザーサイと同じ味の野菜だ。頭がこんがらがった。
野菜直販所へ出かけ、飲食店でのいきさつを話すと、これはアブラナの一種、からし菜の変種で、大きな株から出てくる脇芽の部分を収穫したものだそう。『蕾菜』というのは福岡県で品種改良されたものを指し、他に『四川児菜(子持ち高菜)』『祝蕾』『子宝菜』などと、別名で売られているとのこと。その日、直販所の札を見てみたら『四川児菜(子持ち高菜)』と記されていた。ザーサイは高菜の仲間なのだそうだ。
ま、名前はどうでもいい。どれも蕾を食べるのだから、とりあえず『つぼみ菜』を選択しておこう。これが大変においしい。一番おいしいのはぬか漬け。二番目は生をスライスしてサラダ。いずれもコリコリした歯触りがたまりません。ああ、でももう、今年『つぼみ菜』の出番はオシマイかな? 残念! もしも見かけたら、トライしてみてくださいませ。


こぐれひでこ|つぼみ菜の漬物


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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)