くらしのたね

我が家のヨボヨボ椅子は100歳だった!


 この椅子は壊れています。右のものは座板が陥没していますし、まともに見える左のものは座るとグラグラでギーギーとイヤな音を立てます。6脚ある同じ椅子はどれもこれも、どこかしらが壊れています。他のものなら「廃棄処分するしかないね」と、きっぱり考えるところなのですが、我が家では老体に鞭を入れて普段使いをしています。私にはどうしてもこの椅子たちとさよならする勇気が持てないし、椅子であるからにはそれ相応の働きをして欲しいと思うからです。それに、背もたれの曲線がなんとも言えず好き。


壊れた椅子


 この椅子は十数年前、パリの蚤の市で手に入れたもの。売り手の説明によると「第二次大戦以前にウイーンのカフェで使われていた」そうです。座板の裏には「MUNDUS/VIENNA/AUSTRIA」の商標も残っていたので、売り手の言を信用して購入したのです。


 しかし近頃、この椅子たちのヨボヨボ具合がひどくなり、修理に出すことにしました。そして改めて思ったのです「この椅子はいつ作られたのか」と。そのとき着目したのがメーカー名と思われるMUNDUSという文字。ネットで調べてみましたところ……有名な曲木椅子の会社であることが判明!! しかもMUNDUS社は1914年に他の会社と合併したとのこと。ということはMUNDUSとしか記されていないこの椅子は1914年以前に作られたもの? もしかしたら100歳以上なのか、この椅子は? 私たちはこんな高齢な椅子たちに十数年間も日々、重労働を強いていたのか。驚いた!
 深く反省!
 こんなことがあるなんて、人生は楽しいねえ。あ、修理が終わったら、また元通りに働いてもらいますから、その点、椅子さんたちよろしくね!


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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)