くらしのたね

赤い、赤い、赤い還暦

先日40年来の友人が還暦を迎えた。仲間たちの祝福を受けながら、彼女は何を思っているのだろう。5年前の自分を思い出していた。

「まさか私が60歳?! いや確かに私は60歳!」相反する気分がクルクルと頭の中を駆け巡り、なかなか落ち着かなかったあの夜。

秘密裏に計画されていた還暦パーティで、私は赤い衣装を着て60歳のヒロインになった。還暦で赤い衣装を着るという風習は「60歳になると生まれ変わって赤ちゃんに戻る」ということなのか。成人になる20歳、惑わなくなる40歳、生まれ変わる60歳……20年ごとに人生のターニングポイントは訪れる。

還暦祝いの夜、もらったプレゼントは

60本の赤いバラ。ドライフラワーになったバラは深さのある額に詰め込み、壁に飾ってある。80歳を迎えたとき、私はどんな思いでこのバラを見つめるのだろうか。

還暦とは「人生をリスタートすべし」という諭しなのかもしれない。そう理解して5年前に人生のリスタートを切ったつもりなのだが、思ったようにコトはうまく運んではくれない。

今年の誕生日直後に「介護保険料納入書」を受け取って、やっと高齢者である我が身を自覚し始めたところ。確かに、肉体的にも精神的にも、昔みたいな頑張りがきかなくなっている。



もひとつ、還暦の贈り物は

深紅の毛糸のパンツ。しかも100%カシミヤ製。お婆ちゃんの原宿:巣鴨の商店街で探してくれたものだ。その夜「また~、冗談がきついよ」と反応した私だが、この5年間このパンツにはお世話になりっぱなし。なにしろ驚くほどに温かいのだ。先見の明ある友人に感謝あるのみ。

還暦で迎えるリスタートとは、それまでとは違う人生を構築せよ、という諭しだったのだと最近しみじみ感じている。そう、若い頃と同じことをする必要はないのだ。いまできることをちゃんとやっていけばいいのだと、自分に言い聞かせているところ。さあどうなりますことやら……自分でも自分の将来が楽しみ!


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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)