くらしのたね

温故知旨のススメ


 皆さん、これは何のための道具か分かりますか?
 カンナではありませんよ。 あ、カンナってなに? という方もいらっしゃるかもしれませんね。ほら、大工さんが板を削るときに使う道具、あれがカンナです。 ま、この写真の道具もカンナと同じような働きをするものなんですが、削るのは木ではなくて鰹節。 鰹節削り器と言います。ある程度、年齢を重ねた方ならご存知のはず。昔はどこの家庭にもこの道具があって、鰹節を削るのは子供の役目でしたね。指を一緒に削ってしまいそうで怖かった。「市販の削り節でいいジャン!」と思いながら、嫌々やっていたことを思い出します。


削り節


 ところが大人になってみると、削り節と削りたての鰹節では全然違うということに気がつくんですね。香りが違う。 うま味が違う。 そして口に入れたとき、削り節は歯の裏にくっついてしまうような感じだけれど、削りたてのそれは口の中央に留まって、じっくりと味わうことが出来る。 私がこれを手に入れたのは40歳になる直前だったでしょうか。(大人になるのが遅かった!) そのきっかけは京都のカウンター割烹。 ひたすら鰹節を削っている小僧さんがいたのです。 こんなに大量の鰹節を何に使うのかな? 興味津々で見ていたら、注文を受けるたびに大量の鰹節と大量の昆布で新しくダシをとっていたのでした。 ヒエ~、こりゃおいしいはずだわ、とそう思い、私も真似してみようと決意したのですが、我が家にはひたすら鰹節を削ってくれる小僧さんがいないので、ダシをとるためのものは削り節で、おひたしなどに添えるのは削りたての鰹節で、と使い分けるようになったというわけ。削りたての鰹節は本当においしい。


削り節の料理


 今週は「鰹節削り器を使ってみませんか」のススメ……「温故知新」否「温故知旨」です。


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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)