くらしのたね

竹製品のおだやかな魔力


 籠が大好きな友人がいる。旅先での散策中、籠の並んでいる店を見かけると反射的にその店に近づいて籠を触り始め、「あ、ダメダメ、うちには売りたいほどの籠があるんだから」といって通り過ぎる。それなのにしばしバラバラで歩いた後、待ち合わせの場所へ行ってみると、彼女は竹籠を持っていて、こう言う「ああ、また買っちゃった!」。

 素朴でありながら繊細で粋……たしかに竹籠というのは魅力的だ。上記の友人ほどではないが、我が家にも竹籠やザルはたくさんある。一時はザル豆腐のザルまでとっておいたものだが、あまりに大量になりすぎて数年前に捨てた。それでもまだ竹製品はたくさんある。

 今回紹介するこの3つの竹籠。それぞれがかわいいでしょ? だけどこれらはどれも、私が竹籠として買い求めたものではない。左の籠は、笹の葉に巻かれた水ようかんが入っていた。真ん中の繊細に編まれた竹籠には白い花のブーケがこんもりと盛られていた。2点ともにいただき物が入っていた器である。そして右側の竹籠、これには松茸が2本入っていた。これだけは私が買い求めたものだが、買ったのは松茸であって籠ではない。日常的にはこんな具合に果物やジャガイモ、タマネギなどの容器として使用しているのだが、鍋の準備が始まるとこれらの籠は具材用の野菜容器として活躍することになる。
 
カゴ3点


 この竹ザルは長野県松本市の工芸品。私にしては珍しくザルそのものを自費で購入した。力強さと涼やかさとシックなデザインに心を打たれたのである。たくさんある我が家の竹製品の中で、唯一値の張った工芸作家の作品だ。ほかの竹製品とはちょっと格上であるこの子だが、活躍の場は上記の竹籠と同じ。
 
イスの上のカゴ


 竹製品というものは何故これほど、我々の心の中に自然な、そして心地よい感じで、するりするりと溶け込んでくるのだろうか。竹製品に触れるたび、ナチュラリストになったような気分が湧いてくるのはなぜなのか。
 竹という素材に奥深い魔力を感じる私。これは日本人に限らず、竹とともに暮らしてきたアジア人特有の感覚なのかもしれない。


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プロフィール

こぐれひでこ プロフィール

1947年埼玉県生まれ。
イラストレーター。
デザイナーとして活動後、
『流行通信』での連載がきっかけとなり、イラストレーターに。著書には、「食」「暮らし」に関するエッセイも多く、毎日の食事を公開しているホームページ「ごはん日記」は2000年より連載中。読売新聞の「食」に関するコラム「食悦画帳」は2004年より連載中。著書は『こぐれひでこのおいしいスケッチ』(新潮文庫刊)、『小泉今日子×こぐれひでこ 往復書簡』(角川マガジンズ)